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天鵞絨
管理人のなぁにこれぇな生活
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実家から帰って来たよ…結局。
日記更新しようと思ってたのに!
付属させる小話考えてたら、もう実家から帰ってきていたという罠。
でも悔しいから載せちゃう!

と、いうわけで。
続きを読むからドウゾつ

因みに普.日.(プー出てないけど)ですよ。

 
「き、菊…なんで、こんなこと…」
段々と尻すぼみになっていくフェリシアーノの言葉。
だが、そう言いたいのはルートヴィッヒも同じだった。

いつもと同じ定刻会議。
いつもと同じ面子。
余り代わり映えのない会議の内容。
しかし、ゆっくりと統一を構築する世界。
もう何年も昔となった連合軍と枢軸軍の戦争が、連合軍側の勝利という形で終わってから、世界は収束の体を表し始めた。
それは単に連合軍が勝ったから、ではなく連合軍と枢軸軍という世界の二大勢力がぶつかり合った結果である。
よって、もしも枢軸軍が勝利していても世界はまとまりを見せただろう。
勝てば官軍とは良く言ったものだ。

勝った連合軍が中心となり、数年前から枢軸軍の主要人物も加わって、残ったレジスタンスの対応にあたっている。
主な勢力が概ね連合軍と枢軸軍に分かれていたため、かつての大戦のような緊張感はない。
だから、今日もいつも通りの会議が行われて、終わるはずだった。

ルートヴィッヒが見た限り、菊におかしなところは無かったように思えた。
大戦前からの付き合いなので、連合の連中よりは菊のことを解っているつもりだ。
フェリシアーノもそうに違いない。
しかし、つもりだったのだろうか。
現実はどうか?
菊は会議中に表情を崩すことなく連合軍のトップであるアルフレッドを昏倒させ、混乱に乗じて対レジスタンスの核とも言えるチップを強奪、そのまま現在も逃走中。
菊が奪ったチップは連合軍と枢軸軍の総合情報がすべて書かれているものだ。
つまり、そのチップがあれば、今の状況から再び少数レジスタンスが優位に立つことも可能なのである。
再びの、大きな犠牲を孕んで。
もしかしたら、世界が崩壊する程の。

長年一緒に居たせいか、ルートヴィッヒは菊がどの道順で外に出るかの見当がついていた。
フェリシアーノとルートヴィッヒで挟み込もうと思ったのだが、フェリシアーノには銃を、背後から近づいたルートヴィッヒには彼の愛刀を突き付けられた。
はらはらと涙を流すフェリシアーノを前に、菊がどんな顔をしているか、残念ながら菊の後ろ頭からは、ルートヴィッヒには読めなかった。
「菊、やだよ…こんなのダメだよ…!」
フェリシアーノの訴えに耳を貸しているのかいないのか、菊はぴくりとも動かない。
「オレ達、ようやく自由に会えるようになったのに…自由で平和な世界にしようって…菊、きく、もう戦いは嫌だって、」
菊がこのような暴挙に及んだ理由が解らない以上、ルートヴィッヒはフェリシアーノが菊から理由を聞き出してくれることを祈るしかなかった。
「この間だって、こ、今度はニホンを案内するって言ったじゃん!ハナミもマツリも見ようって…菊が、言ったんだよ…?」
敗れた枢軸軍側の主要の人間というわけで、菊、フェリシアーノ、ルートヴィッヒは三人だけで会うことを禁じられていた。
それが解除されたのは昨年のことで、以来、各々の国に招いて、枢軸軍時代のように朝まで三人で語り明かしていた。
楽しかったことは勿論、辛かったことも苦しかったことも糧にして、笑いあえる未来をつくろう、と飲み交わしたのも最近のことだ。
「菊がいなきゃ、オレもルートもニホンで迷子だよ?やっと会えたんだよ?な、な、なのにっ!菊だけ!いなくなっちゃうなんて嫌だよっ!」
肩で息をして、フェリシアーノが叫んだ。
菊の刀身が僅かにぶれる。

「…フェリシアーノ君」
ヴェ?と、謎の擬音を発したフェリシアーノが、動揺したのが空気に伝わる。
何故、動揺したのか、菊の表情が見えないルートヴィッヒにも良く解った。
菊は、哀しい背中をしていた。
かの戦いで倒れたルートヴィッヒを越えて、前線に躍り出た背中と同じだった。

「ごめんなさい」

フェリシアーノの頬にも、釣られたように一筋のなみだ。

「ありがとう」
「っ、菊!」

フェリシアーノが菊に抱きつく。
彼らには、優しい彼が自分達を傷付けないという自信があった。
「きく、どうして…?」
菊の顔を手で包んで、フェリシアーノが尋ねる。
菊の目の中に、顔中を涙にした自分の情けない顔が映る。
「私はね、フェリシアーノ君…わたし、」
桜貝の様な唇から紡がれる、菊の声。
「あの人を護るためなら…例え、世界が滅んでも」
聖母の様な笑みを讃えて、菊は破壊を口ずさんだ。
ルートヴィッヒはその一言で全てを悟った。
少し前からスパイの影が見え始め、買い物に行ったきり帰ってこないルートヴィッヒの兄。
連合軍側だと思われるスパイの見当はついていたが、菊と兄の関係を利用しようという手口には怒りを覚える。
ルートヴィッヒは菊の刀の刃を躊躇なく握り締めた。
「!、やめっ」
焦ったのは菊の方だった。
刀を向けたのは彼なのに、その滑稽さが、ただ愛おしい。
「革の手袋だ、傷は付かない」
「でも…っ!、!?」
振り返った菊の目に、ルートヴィッヒの手が覆い被さる。
「ルート、さん?」
ルートヴィッヒとしては、非常に悔しいことだが迷いはなかった。
「菊、兄さんだと思え」

昔、酔った勢いで菊にキスをしたことがあった。
酒の力を借りなければ、好いた相手に思いも伝えられない自分が情けなかったが、どうしてもこの気持ちを告げたかった。
良い返事が貰えるとは毛頭思っていなかった。
ただ、言って楽になりたかった。
最後に一つ、好きだという印を菊に与えたかった。
罵られることを覚悟していたが、菊も酔っていたのか、ふふ、と笑って、
「お兄様と似ていますね、キスの仕方」
と言った。

考えようによっては罵られるより残酷な答えだったが、この瞬間のためだったら悪くない。
(兄さんには気の毒だが…役得、だな)

「……ギル、」
ルートヴィッヒにとって永遠とも思えた二度目の口付けは、菊が合間にぽつりと呟いた言葉で終わりを告げた。
だが、その一言でフェリシアーノもルートヴィッヒも事実を悟った。
菊の瞳は潤んでいたが、確固たる信念を黒色に宿している。
菊の覚悟は決して折れないことは良く知っていた。
「菊、ゼンショもまたこんども無しだよ。…生きて、また三人で、馬鹿みたいに騒いで…笑うんだ」
フェリシアーノが泣き笑いのような顔で言う。
先ほどのキスに自分の思いは伝えたとばかりに、ルートヴィッヒはフェリシアーノの隣で頷いている。
(…私にはもったい無い程の、戦友ですね)
一度、息を吐き出し、目を瞑って、

「  さようなら  」

今までに見たことのない、無邪気な笑顔を残して、菊は消えた。

フェリシアーノは声を出さずに泣いた。
ルートヴィッヒは心の中で祈りを捧げた。

これは、菊にとっての戦争で、きっと長いものになるだろう。
敵の親玉に会ったとき、もしくはギルベルトと再会出来たときに、菊はきっと、どうして来た、と聞かれるだろう。
その言葉に彼は、きっとマリアのような笑顔でこういうのだろう。

彼のためなら、世界が滅んでも、構わない
(あなたのためなら、世界が滅んでも、構わない)
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